伊達軍曹 ▲輸入中古車評論家を自称する筆者が、オートモビルカウンシル2024の会場で見つけた「思わず唸ってしまったモデル」5選を紹介しよう

古今東西のヘリテージカーを見れるだけじゃなく買えるイベント

古今東西のヘリテージカー多数を展示するだけにとどまらず、その背景にある文化を紹介しつつ、さらには展示車の即売も行われるというユニークなイベント「オートモビルカウンシル」。

同イベントも今年で9回目の開催となり、4月12日から14日の会期中には過去最高となる3万9807人が来場。そして販売価格が1000万円を超えるケースも多々あった展示即売車も、その多くが会期中に「売約済み」となった模様。とにかくイベントは大盛況で、昨今のヘリテージカー人気を裏づける結果となった。
 

オートモビルカウンシル2024▲オートモビルカウンシル2024会場の様子

そんな「オートモビルカウンシル2024」にて、輸入中古車評論家を自称する筆者が図らずも唸り、そして思わず「コレ買います!」と言いたくなってしまったヘリテージカー5モデルをご紹介しよう。
 

 

1台目:メルセデス・ベンツ ミディアムクラス 500E

年式:1992年式
価格:560万円
出展者:ヤナセクラシックカーセンター


オートモビルカウンシル2024ではほぼすべての出展車両に目が釘付けとなった筆者だったが、その中でも最初に「おっ?」と思ったのがこちらだった。ヤナセの様々な部署で経験を積んだエキスパートがヘリテージモデルのメンテナンスと販売を行う「ヤナセクラシックカーセンター」が出展した、1992年式のメルセデス・ベンツ ミィディアムクラス 500Eである。

ご承知のとおりW124型500Eは素晴らしいモンスターセダンであり、それをヤナセクラシックカーセンターが整備したうえで展示即売しているのだから、内外装および機関などのコンディションが素晴らしげに見えるのは想定の範囲内。特に驚くにはあたらない。
 

メルセデス・ベンツ 500E

筆者が驚いたのは、その価格だ。

「ご、560万円……?」

数字の先頭にあるべき「1」を入れ忘れたのかとも思ったが、確認してみると、確かに販売価格は560万円であるとのこと。

昨今、W124型500Eの中古車価格は「安めのモノでも500万円」という状況であり、状態の良い個体では1000万円を超えることも珍しくない。それなのにこちらのパールグレーの1992年式は、おそらくは新車時からヤナセで徹底メンテナンスを受けてきた個体であるにもかかわらず、なぜ「安めのモノ」に毛が生えたぐらいの値付けになっているのか?
 

メルセデス・ベンツ 500E

「この価格は、お客様のご希望に基づくものなのです」

ヤナセクラシックカーセンターのブースにいたナイスミドルな社員氏は、そう説明した。聞けば、ヤナセクラシックカーセンターが今回出展した車両はすべて委託販売車両であるとのこと。つまりヤナセクラシックカーセンターの顧客が所有している車両を、顧客からの委託を受けて展示販売するという形を、今年のヤナセクラシックカーセンターは採用したのだ。

ヤナセクラシックカーセンター 安食善雄さんのコメント

「こちらの500Eを所有されているお客様は『車文化の次世代を担う若い人に、この車を乗り継いでもらいたい。そのために、お若い方でも手が届きやすい価格設定にしたい』という強いご意向をお持ちでした。その思いを受けて――もちろんお客様と打ち合わせをさせていただいたうえで――560万円という販売価格に設定した次第です」

……オートモビルカウンシルは単なるヘリテージカーの展示即売会ではなく、「自動車文化を継承していくためのイベントでもある」という部分の素敵な証拠を、力強く突きつけられたような気分になった。そして筆者はそのとき、「560万円」という現金ないし預金の持ち合わせがないことを、激しく後悔したのであった。

▼検索条件

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス(W124型) ×500E×全国
 

2台目:マセラティ グランカブリオ フェンディ

年式:2012年式
価格:ーー(取材時点で売約済)
出展者:コレツィオーネ


マセラティ グランカブリオ

「車両560万円で買える極上と思しき500E」というのも激レアな存在だが、こちらのマセラティは「単純に超絶レア物である!」という部分と、世界的ファッションブランドとコラボした限定仕様ならではの「妖艶でギリギリなセンス」に唸ってしまった1台だ。

マセラティ グランカブリオ フェンディは、マセラティ初の4シーターコンバーチブル「グランカブリオ」に、フェンディ独自の特別仕様を施したもの。デザインはフェンディ家3代目のデザイナー シルヴィア・フェンディ氏が担当し、販売台数は世界限定50台。そして日本へはそのうち2台のみが正規輸入された。つまりこちらのグランカブリオ フェンディは、そのたった2台のうちの1台である。
 

マセラティ グランカブリオ

超絶レア物であるマセラティ グランカブリオ フェンディの細部は、主には下記のとおりとなっている。

・三層コートのスペシャルボディカラー「グリージョ フィアンマ フェンディ」を採用。
・ブレーキキャリパーやインテリアトリム、ヘッドレストの刺繍にフェンディ伝統のイエローカラーを採用。
・レザーシートや20インチホイールの中央にフェンディのブランドロゴ「ダブルF」を使用
・ダッシュボードとドア内側、シフトレバーなどに、イエローカラーのウッドトリム「ぺルガメーナ フェンディ」を採用。
・その他いろいろ
 

マセラティ グランカブリオ
マセラティ グランカブリオ
マセラティ グランカブリオ

この手のハイブランドのロゴ的なモノを車や洋服に組み合わせると、どうても「決して上品とはいえない感じ」になりがちである。そしてこの限定モデルの内外装も「上品」ではないのかもしれない。

だがフェンディ家3代目のデザインセンスと「マセラティ」という魔性のブランドが混交したとき、そこには確かに「ギリギリの美」のようなものが出現するのだ。ダサいようなダサくないような、なんとも言えないギリギリで絶妙な世界だ。

そして筆者は、そんなギリギリの美を「カネは持ってないが、欲しいかも!」と判断した。ゆえに、出展者であるコレツィオーネの成瀬社長に「ところでコレ、おいくらですか?」と尋ねた。

コレツィオーネ 成瀬健吾社長のコメント

「すみません。おっしゃるとおり世界限定50台、日本に正規輸入されたのはたった2台と大変希少なモデルなので、早々に売れてしまったんです……。しかし、こちらの会場で展示することはすでに決まっていたため、オーナー様からご承諾を得て特別に展示させていただいております」

ギリギリの美を理解し、そして理解するだけでなく「そこにためらいなく大枚を投じられる人物」は、確かに実在していた。私も、いつかはそんな人間になりたいと願っている。
 

▼検索条件

マセラティ グランカブリオ(初代)×全国 ※「フェンディ」以外のグレードを含みます
 

3台目:フォルクスワーゲン ゴルフカブリオ クラシックライン

年式:1993年式
価格:429.8万円
出展者:スピニングガレージ


フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ

こちらは、フォルクスワーゲン ゴルフIIの専門店である「スピニングガレージ」が出展したゴルフカブリオのクラシックライン。ご承知のとおりゴルフカブリオ クラシックラインとは、初代ゴルフカブリオの最終限定車として発売された、ゴルフIとゴルフIIのコンポーネントをミックスして作られたオープンモデルである。

そんなゴルフカブリオ クラシックラインをスピニングガレージが出展するのは「オートモビルカウンシルの恒例行事」のようなものなので、特に驚くにはあたらない。だが遠目からその展示車を眺めていると、なんだか妙な違和感を覚える。……違和感の源は何だろう? と思い、同社代表取締役の田中延和さんに尋ねてみたところ「あ、なるほど」と得心した。
 

フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ

スピニングガレージ 田中延和代表のコメント

「こちらのゴルフ カブリオ クラシックラインは、後期型であるクラシックラインを“70年代の初期型風ルック”にモディファイしたものです。具体的にはヘッドランプとフロントグリル&フロントバンパーを初期型のモノに替え、フェンダーアーチモールやサイドスカートも取り外してナローなフォルムに整えています。そしてモール類も、初期型特有のメッキモールに交換するなどして生まれたのが、こちらの70年代風クラシックラインです」

フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ
フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ

ゴルフIIのコンポーネントも流用したことで「少しだけマッチョな感じ」になってしまったのがクラシックラインの数少ない欠点だとするならば、それをナローな初期型風に戻すカスタマイズは、「往年の感じ」を好む筆者のような者からすると、大変にありがたい手法である。

ちなみにこちらの物件は、手間と部品を使って初期型風に変えるだけでなく、幌の張り替えや内装の張り替えなども行ったため「429.8万円」という値付けになった。だが普通にノーマルなクラシックライン(ただし普通に問題なく走るモノ)を買うとしたら、いくらぐらいの予算感になるか? と田中社長に尋ねたところ、「弊社の場合はだいたい300万円の予算を見ていただければ、普通にいい感じのクラシックラインをお求めいただけるかと思います」とのこと。

10年前と比べれば高くなってしまったが、まだまだ「買えない値段」にはなっていない、ゴルフ カブリオ クラシックラインであるようだ。
 

▼検索条件

フォルクスワーゲン ゴルフカブリオ(初代)×クラシックライン×全国
 

4台目:ポルシェ 924

年式:1988年式
価格:390万円
出展者:DUPRO


ポルシェ 924

こちらも先ほどのフォルクスワーゲン ゴルフカブリオ クラシックラインと同様に「ややマッチョになった後期型を、シンプルな初期型風ルックに戻した1台」だ。

ベースとなったのは、屋外で10年ほど放置されていた最終型ポルシェ 924Sの3速AT車。ご承知のとおり1975年に本国で発売されたポルシェ 924は、もともとはフォルクスワーゲンとの共同開発という形でスタートしたモデルで、初期型にはフォルクスワーゲン用に開発されたものをベースとする2L直4 SOHCエンジンが搭載された。

そこから徐々に進化していき、1986年(※日本では1987年)に発売された純ポルシェ製2.5Lエンジンを搭載する「924S」になって初めて、ポルシェとしても納得のいく内容の1台になったと言われている。
 

ポルシェ 924

DUPRO 渡辺大介取締役のコメント

「デザインの面では、オーバーフェンダーやウイングなどが付いてしまった最終型ではなく、シンプルでナローな初期型こそが『デザイナーが本来思い描いた形』であると思うんです」

ポルシェ 924

そして渡辺さんは10年間放置されていた924Sを見つけた際、「ポルシェが納得するに至った後期型の“中身”を生かしつつ、ビジュアルは初期型のそれをリスペクトする1台を作ってみよう」と思い立ち、レストア作業を開始した。

ウイングもオーバーフェンダーも取り払い、後期型ではブラックアウトされていたモール類と、ボディ同色となっていたドアミラーはメッキに戻した。そしてついでに壊れていた3速ATも取り払い、944S2の5MTを移植した。

そしてその他もろもろの細かな修復とカスタマイズを行い、さらには「絶妙な使用感」もあえて残しつつ、本来であればこの世に存在しない「ナローボディの924S」を作り上げたのだ。
 

ポルシェ 924

ヘリテージカーの世界では「完全オリジナル(すべてが純正状態を維持していること)」こそが、最も価値があるとされている。

筆者もそれに異を唱えたいわけではないのだが、「オリジナル状態を十分リスペクトしつつ、自分のイマジネーションと入手可能な部品を活用しながら“架空のオリジナル”を作っていく」という行為も、もっと称賛されてしかるべきだとは思っている。
 

 

5台目:日産 マーチ R

年式:1990年式
価格:660万円
出展者:DUPRO


日産 マーチ R

上記で紹介したとおり、DUPROのポルシェ 924には思わず唸ったわけだが、その隣に展示されていた車には驚いた。

それが、千葉県の納屋で発見され、納屋の中で車体に付いた土や泥を発見当時のままにしている1990年式日産 マーチ Rだ。

1988年に発売された日産 マーチRは、ラリー競技のためのベース車両。総排気量930ccのMA09ERT型エンジンにターボとスーパーチャージャーを直列に装着し、空冷インタークーラーを装着して最高出力110psを達成。パワーウエイトレシオ6.72kg/psを実現している。
 

日産 マーチ R

そんなマーチRは前述のとおり「競技のためのベース車両」であるため、ほとんどのケースにおいて、純正のスチールホイールは社外のアルミホイールに交換されているし、純正シートも社外のバケットシートに交換されてしまっている。それが、この車の「普通の姿」だ。

しかし、今回出展されたこちらは――どういう理由かは定かでないが――フルオプションを装着したうえでホイールもシートもいっさい交換せず、しかも取説の類もぜ~んぶ丁寧に保管したうえで、あるときから納屋に放置された。そして1990年当時の姿のまま、2024年の世へと再び現れたのだ。
 

日産 マーチ R
日産 マーチ R

DUPRO 渡辺大介取締役のコメント

「こういう車って、他人がキレイにしちゃいけないと思うんですよね。もちろん『キレイにしてくれ』と言われたらやりますが、この種の物件が欲しい人というのは、すべての状態を自分の目で確認しながら、自分でクリーニングしたいはずなんです。だから、納屋で付いた土は全部そのままにしてありますし、『この車にだけは、絶対にお手を触れないでください』と、皆さんに申し上げています(笑)」

日産 マーチ R

土と泥も含めて約30年前の世界から(ある意味)タイムスリップしてきた、1990年式日産 マーチR。こういったお宝を間近で見ることができるのも、オートモビルカウンシルというイベントの魅力なのだろう。まぁ身近で見られるというだけで、納屋の土が付いたボディは「絶対にお触り厳禁」なわけだが!
 

▼検索条件

日産 マーチ(初代)×R×全国 ※掲載がない場合があります
文/伊達軍曹 写真/篠原晃一
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。